進化の袋小路という概念の由来
それにしても、「進化の袋小路」ってもともとどこから出てきた言葉なのだろうというのはちょっと思う。意外と原典が知られてたりするんやろか
— 念波 (@nennpa) 2022年6月5日
自分も気になって調べたので、「進化の袋小路」概念を唱えていた学者をいくつかまとめておく。
Otto Schindewolf
- 1940年代にTypostrophism(Typostrophe説)を唱えた
- タイプの進化段階を次の3つとした
- Typogenesis(タイプの発生)
- Typostasis(タイプの発展)
- Typolysis(タイプの終末)
Alpheus Hyatt
- 1800年代後半にかけて、加速による反復説に基づいて老齢説(old age theory)を唱えた
- 詳しくはStephen Jay Gould『個体発生と系統発生』『進化理論の構造』を参照
- 特に『進化理論の構造』pp. 516–517では「進化の袋小路」論に関して言及されている
- ヒトが「進化の袋小路」にあるとも説いた
ハイアットは進化の悲観論をがなり立てる最初で最大の人物というわけではなかった。しかし、「これら系統老齢的なタイプのうちでもっとも注目すべき例369」(1897, p.244)という焼き印を人類に与えることで悲観的な見解に新たなひねりを加えた。
スティーヴン・ジェイ・グールド『個体発生と系統発生』 p. 152
Branislav Petronievics
- 1921年に「Lois de l'évolution des espèces des rameaux phylétiques et des groups」において進化に関する24の法則をまとめた
- それらの法則のうち段階の法則の由来をErnst Haeckelに求めた
16 〔時代(段階)〕の法則
生物の各群は、その進化にあたり、幼年期・壮年期および老年期をへて、ついに絶滅する
この法則はヘッケル(一八六六年)によって最初に設定された。しかし彼以前にもおおくの反進化論者によって、この法則は支持されていた。すなわち、ある種族の古生物学的年代において、その個体数および変種の数を、以上の三段階の特徴であるとみとめていた。
井尻正二『科学の階層性』p. 147
Ernst Haeckel
- 1866年の『Generelle Morphologie der Organismen』で反復説(当時はまだ生物発生原則とは呼んでいなかった)を唱えた
- 日本語での概要は佐藤恵子『ヘッケルと進化の夢』を参照
- 『Generelle Morphologie der Organismen』第21章の中で系統発生を3つの段階に分けた
- Epacme:繁栄期
- Acme:全盛期
- Paracme:減退期
おまけ
進化の規則性すなわちヘッケル(Haeckel)のいうエパクメ(Epacme)、アクメ(Acme)、パラクメ(Paracme)、シンデヴォルフ(Schindewolf)のいうティポゲネーゼ(Typogenese「型の発生」)、ティポスターゼ(Typostase「型の発展」)、およびティポリーゼ(Typolyse「型の終末」一九二ページ訳注)、また他の著者のいう種族の「青年期」「成熟期」「老年期」などというものは、広く生命の歴史を概観する際には単純には存在しないものである。
G・G・シンプソン『進化の意味』p. 190
これまで誤解されてきた三つの点をあげておこう。
〔…〕代表的な定向進化論者はみな、内的な方向性という自分たちの主張に目的論的な要素や有神論的な要素はないと、声高に叫んでいた。
スティーヴン・ジェイ・グールド『進化理論の構造』p. 500